2025年4月3日
価値が伝わらない相手には売るな——“売ったら危険なお客様”とは?

「どんなに良い提案をしても、なぜか響かない…」
「本来なら魅力的なはずの商品・サービスなのに、なぜこの人には伝わらないのか?」
営業の現場では、こうした疑問に何度も直面することがあります。
特に、法人営業においては、相手企業のニーズや価値観に合わない提案をしてしまうと、契約後にトラブルやクレームに発展するリスクさえあるのです。
今回は、「売ったら危険なお客様」とはどのような存在なのか、なぜそのような相手に売ってはいけないのか、そして、どのように“価値のわかるお客様”を見極めるべきかについて、実例を交えながら深掘りしていきます。
第1節:営業の落とし穴——“誰にでも売ろうとする姿勢”が招く失敗
法人営業の世界では、「売上をつくること」が最優先される場面が少なくありません。
しかし、目先の数字だけを追い求め、「誰にでも売れるはず」と信じて提案を続ける営業スタイルは、実は大きな落とし穴です。
たとえば、ある中小企業向けに業務効率化のSaaSを提案していたITベンダーがありました。
年間200万円のコスト削減が見込まれる提案にもかかわらず、顧客は「高すぎる」「今のままで十分」と反応。
実際には、彼らが使っていたのは手作業やExcelを中心とした旧来型の業務フローで、非効率が明らかでした。
営業側は「これだけの価値があるのだから、分かってくれるは ず」と信じて説明を重ねますが、最終的に「導入してみたが、やはり合わなかった」と半年で契約は打ち切り。
実はこのようなケース、営業にとって“売ってはいけない相手”だったのです。
第2節:価値観のズレがもたらす「伝わらない」現象
ここで大切になるのが、“価値観の一致”という視点です。
営業とは、単なる説明ではなく「価値の共有」です。
しかし、相手がそもそもその価値を認識する準備ができていなければ、いかに優れた提案も意味を成しません。
具体例としてよく使われるのが、「吉野家の牛丼で満足している人に、ミシュラン三ツ星の料理を勧めても意味がない」という話です。
いくら手間暇や素材、シェフの技術を語っても、「早くて安くて腹が満たされれば十分」という人には響きません。
つまり、営業が届けようとしている“本当の価値”は、受け取る側の価値観や状況によって大きく左右されるのです。
第3節:“売ったら危険なお客様”の見極め方
それでは、“売ってはいけないお客様”とは、どのように見極めれば良いのでしょうか。ポイントは以下の3つです。
価格中心の判断をする人
価格ばかりを気にして「安ければ買う」「高いから無理」と即断する人は、価値ではなく“コスト”を重視しています。これは、サービスの質や成果を理解する前提がない可能性が高いです。
現状維持を強く望む人
「今のままでうまくいっているから変えたくない」と言う人は、変化のコストを極端に嫌います。たとえ改善の余地が大きくても、“現状維持バイアス”が強い相手に提案するのは無駄に終わる可能性があります。
課題の深刻度が低い企業
明確な課題意識がなければ、提案は「よさそうだね」で終わってしまいます。導入するインセンティブがなければ、どんなに素晴らしいソリューションでも行動にはつながりません。
第4節:価値のわかる相手に届ける——ターゲティングの精度を高める方法
逆に、“売るべきお客様”を見極めるためにはどうすればよいでしょうか。鍵となるのは「ターゲティングの精度」です。
たとえば、営業活動前に仮説を立てることで、「この業種・この規模・この課題感を持つ企業であれば、我々のサービスが響くはず」という明確な対象を定めることができます。
IBMでは、訪問前に顧客の課題や成功要因を想定したうえで提案に臨みます。
さらに、実際に成功した案件の要素を分解・分析し、次のター ゲットに活用する「ナレッジの蓄積」も重要です。
最近では、営業活動を可視化し、適切な顧客層を自動で推薦してくれるAIツールも登場しており、セールスイネーブルメントの一環として活用が進んでいます。
まとめ:営業は“価値観の共有”——だからこそ、売る相手を見極めよう
営業は“売り込むこと”ではありません。
“価値を共有すること”です。
だからこそ、その価値を正しく受け取れる人に提案することが、結果的に顧客満足度を高め、長期的な信頼関係を築く近道となります。
「この人には売らない方がいいかもしれない」
そう感じた直感は、決して間違っていないのです。
相手に合わせることも営業のスキルのひとつですが、もっと大切なのは「価値が通じ合える相手に出会うこと」。
そのためにこそ、日々のターゲット選定、仮説立案、情報収集を丁寧に行っていきましょう。
営業は、誰にでも売る時代から、“誰に売らないか”を選ぶ時代へと進化しています。
皆さんも、ぜひ「価値観で選ぶ営業」、始めてみませんか?