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2025年6月23日

営業にとってはクロージングでもお客様にとってはスタートである

営業にとってはクロージングでもお客様にとってはスタートである

第1節:現代営業が陥る「売り逃げ」の罠

現在のビジネス環境では、営業担当者に対するプレッシャーがかつてないほど高まっています。四半期ごとの数字達成、月次の売上目標、そして常に新規開拓を求められる組織体制。このような状況下で、多くの営業担当者が「とにかく契約を取ること」に集中してしまうのは、ある意味で自然な流れかもしれません。

実際に、「契約が取れた途端に次の案件探しに走ってしまう営業担当者」の存在は多くの企業で見られます。特に、売上目標に追われがちな月末や四半期末になると、この傾向は顕著に現れます。

営業担当者の多くは、目先の数字に追われて「今月の売上をどう作るか」「今四半期の目標をどう達成するか」という短期的な視点に陥りがちです。しかし、この「売り逃げ営業」は短期的には数字を作れても、長期的には企業にとって大きな損失をもたらします。

なぜなら、新規獲得コストは既存顧客へのアップセル・クロスセルコストの5倍から10倍かかると言われているからです。また、デジタル化が進む現代では、お客様の声はSNSや口コミサイトを通じて瞬時に拡散されます。「契約後のフォローが悪い」「導入支援が不十分だった」といった評判は、将来の営業活動に深刻な影響を与えるリスクがあります。

多くの営業担当者からよく聞く言葉があります。「契約を取るまでは頑張れるのですが、その後のフォローは技術部門やカスタマーサクセスの仕事だと思っていました」。この認識こそが、現代の営業組織が抱える根本的な問題なのです。

実際のデータを見ると、新規顧客の獲得にかかるコスト(CAC:Customer Acquisition Cost)は年々上昇傾向にあり、一方で既存顧客の維持コストは相対的に安定しています。つまり、経済合理性の観点からも、既存顧客との関係継続が極めて重要なのです。


第2節:お客様の真の成功とは何か

製品導入、システム構築、サービス運用など、お客様の本当の挑戦は契約後から始まります。特にB2Bの法人営業では、お客様が購入を決定する背景には必ず「解決したい課題」や「達成したい目標」があります。

例えば、IT系のソリューションを導入するお客様の場合、単に新しいシステムを入れることが目的ではありません。業務効率化によるコスト削減、データ活用による意思決定の高速化、デジタルトランスフォーメーション(DX)による競争力向上など、具体的なビジネス成果を期待されているのです。

ある製造業の事例を考えてみましょう。その企業は、グローバル展開に伴う情報管理の複雑化に悩んでおり、統合的なERPシステム(企業資源計画システム)の導入を決定しました。

契約締結後、多くの営業担当者なら「案件完了」と考えるところですが、真のプロフェッショナル営業はむしろここからが本番だと捉えています。なぜなら、ERPシステムの導入は通常12〜18ヶ月の長期プロジェクトであり、その間にお客様が直面する様々な課題や変更要求に対応する必要があるからです。

プロジェクト開始から3ヶ月後、お客様の海外拠点で新たな規制対応が必要になり、当初の要件を大幅に変更する必要が生じたとします。この時、営業担当者が技術チームと連携して迅速に対応策を提案し、追加のモジュール導入をご提案することで、お客様の信頼を大きく高めることができます。結果的に、この対応が評価され、翌年度には別部門でのシステム拡張案件を受注することも可能になります。

お客様にとって、導入プロセスで発生する問題や変更要求は「想定外の負担」です。しかし、営業担当者がこの段階で積極的にサポートすることで、「この営業担当者は信頼できるパートナー」という評価を得ることができます。

また、お客様の成功を測る指標も明確にしておくことが重要です。「導入が完了したから成功」ではなく、「お客様のビジネス目標が達成されたから成功」という視点を持つことが必要です。


第3節:継続的な関係構築の仕組み化

では、どのようにして契約後の継続的な関係構築を仕組み化すれば良いのでしょうか。効果的な「アカウントプランニング」の手法をご紹介します。

アカウントプランニングとはお客様の事業戦略、組織構造、意思決定プロセス、競合状況などを総合的に分析し、中長期的な関係構築戦略を立案する手法です。特に重要なのは、お客様の「将来のビジョン」と「現在の課題」のギャップを明確にし、そのギャップを埋めるためのロードマップを共に描くことです。


第4節:売り逃げ営業がもたらす3つの致命的な問題


売り逃げ営業は、一時的な数字は作れても、長期的には以下の3つの深刻な問題を引き起こします。


1. 社内での信頼失墜 「あの営業の案件やお客様を引き継ぎたくない」と評価されるようになります。特に、カスタマーサクセスやエンジニアなどの他部門からの協力を得られなくなり、チーム全体のパフォーマンスが低下します。

ある企業で実際にあった話ですが、営業担当者が契約後のフォローを怠ったために、技術部門から「あの営業の案件は対応したくない」と言われるようになりました。結果的に、技術部門の協力が得られず、新たな提案活動にも支障をきたすようになったのです。

また、営業チーム内でも「引き継ぎが困難な案件」として敬遠されるようになり、組織全体の営業効率が悪化します。特に、担当者の異動や退職時には、後任者が苦労することになり、お客様にも迷惑をかけることになります。


2. 顧客からの信頼喪失 「契約したら連絡が来なくなった」「導入時のトラブルに対応してくれない」といった不信を抱かれてしまいます。現代では、このような評判がSNSや業界ネットワークを通じて瞬時に広まり、企業ブランドに深刻なダメージを与える可能性があります。

特に、B2Bの業界では、担当者同士の横のつながりが強く、一度悪い評判が立つと、それが他の企業にも伝わってしまいます。「あの会社の営業は契約後のフォローが悪い」という評判は、将来の営業活動に長期間にわたって悪影響を与えます。

また、お客様の担当者も社内で「あのベンダーを選んだのは失敗だった」と評価される可能性があり、その担当者との関係も悪化してしまいます。


3. 機会損失の拡大 最も重要なのは、本来得られるはずだった継続的なビジネス機会を失うことです。お客様の成功をサポートし続けることで得られるアップセル、クロスセル、リファラル(紹介)の機会を完全に逃してしまいます。

統計的に見ると、既存顧客からの追加受注の確率は60-70%であるのに対し、新規顧客からの受注確率は5-20%程度と言われています。つまり、既存顧客との関係を維持することは、新規開拓よりもはるかに効率的なのです。

実際の数字で見ると、継続的な関係構築を行っている営業担当者と、そうでない営業担当者の間には、年間売上で2倍から3倍の差が生まれることも珍しくありません。


まとめ:持続可能な営業組織への転換

真の営業プロフェッショナルは、契約をゴールではなくスタートと捉え、お客様の成功に責任を持つことが大切です。

現代のビジネス環境では、単発的な取引よりも、長期的なパートナーシップの方が圧倒的に価値が高いのです。特に、人口減少と市場成熟が進む日本では、新規開拓だけに依存した営業モデルは持続可能性に欠けます。

最も重要なのは「お客様の成功を自分の成功と捉える」マインドセットの変革です。このマインドセットを組織全体に浸透させることで、営業担当者個人のスキルに依存しない、再現性の高い営業プロセスを構築することができます。

そして、それが結果的に企業の持続的成長と営業担当者個人のキャリア発展の両方を実現する道筋となるのです。

契約後のお客様との関係構築に十分な時間と労力を投資できていない組織は、今こそ営業プロセスの見直しを検討する時期です。

お客様の成功こそが、私たちの真の成功なのですから。

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